「子どもを愛するってどういうこと?」「子育ての悩みやストレス、どうすればいいの?」「理想の親とは?」
ママ・パパは日々、切実な疑問と向き合いながら子育てをしています。
実際に親が子どもにできることは何なのか。専門家と一緒にじっくり考えてみましょう。

専門家:大日向雅美(恵泉女学園大学 学長/発達心理学)  
汐見稔幸(東京大学 名誉教授/教育学) 

【目次】
「理想の親」って?
親が「自分の時間」を楽しむのは愛情不足なの?
子どもに愛情をかけるって、どういうこと?

「理想の親」って? 

現代のママ・パパが考える「理想の親」像  

NHK「すくすく子育て」の番組ホームページで行われた「理想とする親の姿」についてのアンケートで、多く挙げられた理想像はこちら。

・感情的にならず笑顔で子どもと接することができる  
・いつも子どもの気持ちを尊重し向き合ってあげられる
・子どもと楽しく遊んであげられる 

専門家は、「すべてを常に満たすのは到底無理」と分析します。 

理想を追求して苦しむのでは本末転倒  

ひとつひとつは決して間違いではない。でも、全てを常に満たすことは到底無理で、できなくて当たり前です。それなのに、理想にとらわれて「私は親として失格だ」と傷ついてしまう。子どものための理想なのに、理想に苦しみ、結果的に子どもと楽しく向き合えなくなるのは本末転倒ではないでしょうか。(大日向雅美さん)  

昔の親はそもそも子どもと向き合う時間をとれなかった  

今、世間が求める“親”がどのようなものかがよくわかる結果だと思います。一方で昔は、親は農作業などの仕事をしながら必死に生きて、必死に子どもを食べさせていました。親が子どもと丁寧に向き合う時間を取れない分、子どもはいろいろなことを自分で学んで育っていきました。現代は、子どもが勝手に育つような時代ではありません。そんな中で親の理想像がママ・パパに押し付けられてしまうとしたら大変なことだと感じます。(汐見稔幸さん)   

以上を踏まえて、現代のママ・パパの子育ての悩みと向き合ってみましょう。 

親が自分だけの時間を楽しむのは「愛情不足」なの? 

夫婦共働きで、育児や家事を分担しながら2歳3か月の息子を育てているママです。子どもをかわいいと思っていますが、子どもから離れることを寂しいと感じたことはありません。子どもはパパが大好きで、パパに見てもらっているときにぐずることもないので、子どもを預けて好きなアーティストのライブに出かけたりもします。でもこのごろ、同年代の子どもを持つ友だちと比べると、自分は子どもへの愛情が少ないのではと気になりだしました。私は、たとえば子どもが熱を出していたとしても、パパにお願いしてライブに行くと思います。他の親だったら、子どもが心配でキャンセルするかもしれません。仕事などで子どもから離れるとホッとする自分がいることにも疑問を感じています。
 子どもと離れても寂しいと感じないのは変でしょうか。親としてもっと愛情を注ぐべきなのでしょうか。

人間として当たり前の感覚  

お悩みのママは、いろいろな人とほどよい距離で関係を結べる方だと感じました。決してお子さんのことが嫌いではありませんし、仕事のときに子どもから離れてホッとするのも当たり前で、変わったことではありません。 
「子どもに熱があってもライブに行く」とあえて言葉にしたのは、子どもへの愛情があり、パパへの信頼があるからではないでしょうか。子どもの熱にも程度があります。楽しみにしていたライブで、パパも「行っておいで」と応援してくれる。「それなら、私は行きます」と平常心で言えることはすてきなことです。周りの方には「母親なのに」と責めないでほしいと思います。(大日向雅美さん) 

子どもは親が仕事や趣味を楽しむ姿を見て学んでいる   

仕事に行くときもライブに行くときも、楽しそうに出かけて、元気よく「ただいま」と帰ってくる。そうしたママの姿を見て、お子さんは学んでいます。「自分が楽しむことは大事」と感じているかもしれません。また、パパは子ぼんのうで、結果的にパパとママでバランスがとれています。(汐見稔幸さん)  

子どもに愛情をかけるって、どういうこと?

5歳、3歳、1歳の子どもを育てている、子ども大好きなママです。義母の介護に追われるようになり、子どもとの時間が少なくなってしまいましたが、限られた時間の中で私も子どももお互いに楽しめていると思っています。 
そんなある日、「子どもがかわいくてたまらない。4人目も欲しい」とママ友に話すと、「今の3人をもっと愛してあげて。もっと母親やってあげなよ。愛情が足りてないよ」と言われたんです。自分なりに子どもたちを愛していたつもりですが、「親って何だろう」と考えてしまいます。親として愛情をかけるとはどういうことなのか、悩んでいます。 


関わる時間が減ったことやその理由を子どもに伝える   

介護のために子どもとの時間が減ったからといって、子どもへの愛情が不足していることにはなりません。ただ、「おばあちゃんの介護が大変で、遊ぶ時間が減ってごめんね」と子ども側に事情をきちんと伝えることは、信頼関係を育むうえでも大切だと思います。子どもたちに介護の様子を見せることも、「ママは大事なことをしているのだ」という理解につながるかもしれません。(汐見稔幸さん) 

大切なのは、関わる時間よりも関わり方の質  

保育の世界では「見守る保育」が大事だといわれています。しかし、見守っているようで、実は「監視」している場合があります。子どもは、大人が自分とどう関わろうとしているのかを、いつも読み取ろうとしています。そのとき、大人のまなざしに「そんなことをしてはいけません」という「監視」の目線があると、接している時間が長ければ長いほど、子どもは不自由になってしまいます。関わる時間よりも、関わり方の「質」のほうが大事なのです。(汐見稔幸さん)

(②に続く)

©NHK
※本記事は、 NHK 「すくすく子育て」のホームページの記事を元に構成・編集・加筆しています。記事を読んでもっと知りたいことがありましたら、ぜひ「マムアップパーク 」にご参加ください。お待ちしています!
※記事の内容や専門家の肩書などは2024年7月当時のものです。