
今回は、子どもとの関わりに悩みつづけたひとりのママからのお便りをご紹介します。
いくつかのきっかけから気持ちの変化があり、心の支えができるまでの日々の様子から、親として大切なことは何かを読み解きます。
専門家:大日向雅美(恵泉女学園大学 学長/発達心理学)
汐見稔幸(東京大学 名誉教授/教育学)
【目次】
・自分を追い詰めた育児から、2つの転機を経て――あるママのメッセージ
・親として何をすればいいのか――専門家のメッセージ
自分を追い詰めた育児から、2つの転機を経て――あるママのメッセージ
慣れない土地での初めての育児で、自分を追い詰めていた
結婚後に瀬戸内海の島に移り住みました。子どもが大好きで独身時代は幼稚園の先生をしており、学校や職場で子どもとの関わり方を学んできたので、子どもに寄り添える自信がありました。でも、長男が産まれてみると、現実は全く思い通りにならずショックを受けたんです。
そのころは、島に誰も知り合いがいない状態で、初めての育児と慣れない土地に不安がありました。その上、「幼稚園の先生だから子どものあつかいが上手だろう」という周囲の期待を勝手に感じてしまい、ますます自分を追い詰めていました。
子どもにイライラをぶつけてしまう日々
長男の遊び相手を探しに育児サークルに参加したりもしましたが、2人目の妊娠をきっかけに足が遠のいてしまいました。そして、次男が生まれると、2人の子育てでさらにイライラするようになりました。ささいな理由で長男を責め、叱ってしまう毎日。長男の顔を見ることすらストレスになり、パパに「もう無理だから、1~2か月離れたい」と相談したこともあります。それほど、子どもと一緒にいることが苦痛だったのです。長男にひどくあたってしまった後は、申し訳ない気持ちでいっぱいになり、その思いをノートに書いて反省していました。それでも、翌日は同じことのくり返しです。
2つの転機で生まれた気持ちの変化
そんな苦しい状態の転機になったのは、長男の幼稚園入園でした。子どもと離れる時間ができたことで、心の余裕が生まれたんです。そして、もうひとつの転機は、同じ幼稚園のママから「家族で一緒に遊ぼう」と声をかけてもらったこと。それまでママ友は必要ないと考えていましたが、長男との関係に行き詰まっていたので誘いを受けました。それから始まった交流の中で、私の気持ちに変化が起きました。
例えば、私の子どもを他のママが褒めてくれる。自分でも気づかなかった子どものよいところを客観的に教えてもらえるのです。そして、子どもが悪いことをしたら、ママたちが他の家の子どもでも叱ってくれる。それで気持ちが楽になりました。
今では、自分からママたちに声をかけ、みんなで遊ぶ機会をたくさん作るようにしています。
ひとりで抱えていた心配ごとも、ママ友同士で話せるようになりました。ママ友も、子どもたちも、まるで家族のように注意し合い、褒め合っています。みんなで子どもを見守りながら、本音で語りあえる仲間がいることが、心の支えになっています。
基本は、親が自分の時間と心を大切にすること
親になるとはどういうことなのか、いろいろなメッセージがこめられています。専門的な子育ての知識を活かせば愛情深く育児できると思っていたのに、現実は違った。でも、子どもと離れる時間ができたことで、少し自分を取り戻せた。その後、ママ友が関わってくれてさらに距離感ができ、子どもだけでなく、自分のことも大切にするための時間と心の余裕ができたわけです。親となって子どもを愛することの基本は、子どもだけではなく、自分自身の人生と生活の足場をしっかり持って大事にすることなのです。(大日向雅美さん)
孤立しないこと、人とつながることが何よりの薬
人類の歴史の中で、母親が朝から晩まで孤立して子育てをした経験はありません。これまでは、常に集団で子育てをしていたことがわかってきています。常に子どもを中心に置かざるを得ない子育ては、親にとってはとてもストレスがたまる営みです。たまったストレスのはけ口は、孤立していればしているほど子どもに向かってしまう。ストレスを上手に発散するいちばん簡単な方法は、人と話をしたり、笑い合ったりすることです。
このケースでは、ママ友が他のお子さんまで叱ることができる、とてもよい関係ができています。ここまでの関係を作るのは大変だと思いますが、現代でも人のつながりによって子育ては楽しくなり、楽になるのだと改めて教えられました。(汐見稔幸さん)
親として何をすればいいのか――専門家からのメッセージ
自分の生きる姿を子どもに見せる
ごはんを食べて、お風呂に入って、寝る。そんな生活を、一日一日積み重ねていく。ここを基本にしながら、親が人生を楽しみ、さらに自分や家族のためだけでなく、社会や地域のために尽くすことも大事です。たとえば、学校のボランティアや、地域の高齢者のために活動したりする。その姿を子どもに見せることが、子どもの視野や世界を広げることにもなるのです。(大日向雅美さん)
子育ては子別れの練習、子どもを信じる練習
子育ては子別れの練習だという考え方があります。たとえば、子どもにおつかいを頼むのは、自分で生活できるようになるための練習になります。やがて、子どもが親の期待とは違う道に進むこともあります。そのとき、頭ごなしに押さえつけるのではなく、いい相談役になってあげる。最終的には、「この子はきっと自分を大切にして生きてくれるはずだ」と信じるしかありません。子育ては子どもを信じる練習という側面もあるのです。(汐見稔幸さん)
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※本記事は、 NHK 「すくすく子育て」のホームページの記事を元に構成・編集・加筆しています。記事を読んでもっと知りたいことがありましたら、ぜひ「マムアップパーク 」にご参加ください。お待ちしています!
※記事の内容や専門家の肩書などは2024年7月当時のものです。
